幻の木「榧」
榧の木とは
榧(かや)は、イチイ科の常緑針葉高木で、世界に7種存在します。中国に4種、アメリカに2種、そして日本に1種。日本国内では、岩手県、山形県以南の本州、四国、九州の山野に分布しています。榧の寿命は1000年にも及び、高さ25m、直径2m程度にまで育ちます。成長スピードは極めて遅く、碁盤づくりに適した直径1.1mほどの大きさになるには300年以上の歳月を必要とします。写真は高知城にある榧の木で、樹齢400年以上です。
榧の木質は、油分が豊富でやや重厚、適度な堅さと弾力性があり、特有の芳香があります。光沢のある淡黄色の色あいで、木肌はきめが細かく、緻密で美しい木目があらわれます。また、耐久性・耐水性にも優れ、昔は建築材や船舶、風呂桶など幅広く使われていました。現在は榧材が枯渇し、そのような用途で用いられることはなくなりましたが、碁盤・将棋盤はもちろん、まな板も最高級品として珍重されています。
榧を利用した製品
碁盤・将棋盤の最高峰
本榧は優れた打ち味、木肌の美しさ、特有の香気など、囲碁・将棋の盤材として極めて優れた特徴を持ち合わせ、古くから愛好家に最高級品として賞用されています。油分が多く、いつまでも色ツヤを失うことのない本榧碁盤・将棋盤は、使い込むほどに渋い飴色の光沢を放ち、風合いを増していきます。
まな板や彫刻材にも最適
榧のまな板はあまり有名ではないかもしれませんが、じつは最高級材にあげられます。ちょうどよい堅さと柔らかな弾力性をもち、刃当たりがとてもよく、包丁が傷つきにくい。また、水切れがよく乾きが早い、水に強い、天然の抗菌性があるなど、まな板に最適です。その他には彫刻や細工などの工芸材に用いられています。色ツヤがよく木目がきれいで、木肌が美しく、加工もしやすいことから彫刻材にも適しています。奈良や平安時代の木彫像には榧のものがたくさんあり、古くからよく使われていたようです。
榧油は食用や棋具のお手入れに
榧の実からとれる良質な油は、過去には食用・頭髪油・灯火用として用いられていました。殊に、食用油は高級天ぷら油として使われてきた歴史があり、大正時代の植物事典「大植物図鑑」には「本邦植物油中最上なるもの」と記載されています。当店では自社で育てた榧の実から油を搾り、食用油や棋具のお手入れ用の榧油を製造・販売しています。
非常に希少な、幻の木「榧」
榧材の枯渇
近年、榧材は深刻な材料不足に陥っています。明治以降、榧の木の伐採が進み、囲碁・将棋の普及とともに本榧盤の需要が急増しました。榧の木が激減し、樹齢の若い小径木までもが伐採されたため、榧が木材市場に入荷することはほとんどなくなっています。伐採が進んだものの、ごく一部の産地を除いて植林されなかったため、今では絶滅に近い状態。そのため、榧が木材市場に入荷することはほとんどなくなっており、天柾の碁盤がとれるような高樹齢のものはその中でもごくわずかです。また、中国産の榧も90年代後半より伐採が禁止され、現在は日本に入ってきていません。
榧の木を未来に残すために
榧の木、そして日本の文化を絶やさないためにも、植林は榧に携わる者の責務です。これから先も榧の木を守るため、当社では30年以上前から植林を始めました。高知や四国の山々に30万本以上(2016年時点)の苗木を植樹。育ちにくさや獣害などから残っているのは3割にも満たないほどですが、徐々に大きくなり実のなる木も育っています。
榧の森づくり
300年先、榧の森を夢みて
現在、榧材は深刻な材料不足に陥っています。明治以降、榧の木は伐採が進み、囲碁・将棋が普及すると本榧盤の需要が急増。それに伴って大きな榧の木が激減し、樹齢の若い小径木までもが伐採されました。しかし、植林はほとんどされておらず、新しい木が育たないため絶滅に近い状態に。木材市場に榧が入荷することもほとんどなくなってしまいました。そのことを知った当社会長は、日本の榧をなくしたくないという想いで、30年以上前から植林を始めました。
榧に惚れこみ40年、森づくりに注ぐ情熱
榧の森づくりのはじまり
榧への取り組みは、お父ちゃん(会長 前川穎司)の囲碁好きが高じて40数年前より碁盤を集め始めたことがきっかけです。榧は、碁盤・将棋盤の最高級品で、色あいのよいきめ細かな木肌に緻密で美しい木目、打ち味や香りも素晴らしく、その魅力にすっかり引き込まれました。それからは、国内外から榧材を買い集めて碁盤をつくるようになり、早朝から深夜まで碁盤づくりに没頭することもありました。そんな中、日本の榧が絶滅に近い状態であることを知り、「このままでは榧がなくなってしまう。碁盤をつくる榧の木を育てたい」と思うようになりました。
種から研究を重ね、30万本以上植樹
種から苗木を育てる研究を重ね、榧の育ちやすい涼しい場所を探し、人の手がかけられなくなった荒れた土地を一から整備し、四国の山々に約30万本以上(※2016年時点)の榧を植えてきました。
しかし、山に残っているのは3割ほど。除草しないと草に負けてしまう、夏の暑さにも弱く、若木はシカやイノシシやウサギが食べてしまう・・・。そして、一人前の立派な榧の木になるには300年と生長が遅く、大変な労力と時間がかかります。
「だからこそ、榧がかわいくて仕方がありません。」
一生懸命育てた榧の木が、300年先に榧の森になると思うと幸せなのです。
「もう日本の榧は大丈夫やき。そればあの本数は植えた」
榧の危機を知り、植林を始め、毎日山に通っていたお父ちゃんも、「もう日本の榧は大丈夫やき。大丈夫という事は、もう絶滅することはないわい。そればあの本数は植えた。」と、笑いながら話してくれます。一人前の榧に育つのは300年も先のことですが、立派な榧の森に育つことを夢みています。
榧の実の活用
古くから利用されてきた榧の実の油
古来、榧の実から搾った油は利用されており、食用油のほか、頭髪油や灯火用油として用いられてきました。江戸時代に徳川家康が食した天ぷらは榧油で揚げられたもので、大正時代の「大植物図鑑」には「日本最上級の植物油」と記されています。
良質な植物油、爽やかな香りの精油に
当社では、植林した榧からとれた実を使い、盤のお手入れ用オイルや食用油のほか、世界で初めて榧の実の緑の果肉から抽出した精油や香水をつくりました。今はまだ榧の実も少なく生産量も限られていますが、榧の木の成長とともに量も増え、将来はもっとお客さまに喜んでいただける活用をしていきたいと考えています。
食用油と精油は「榧工房 かやの森」で販売しております。ご興味がございましたら、ぜひそちらもご覧になってみてください。